『電気ショックカラー』(electronic shock collar)
犬の問題行動を矯正する事を目的としたこ、のアイテムをあなたはご存知でしょうか?
「初めて聞いた」という方も、
「そういうのがあるのは知ってる」「使ったことがある」「気になっていた」という方も、ぜひ最後まで読んでいただきたい内容です。
電気ショックカラー(以下:Eカラー)は、犬の首に巻きつけるように装着して、そこに電流刺激を流す事で、犬に不愉快な刺激(嫌悪刺激)を与えられるように作られています。
さらに
自動で電気が流れるタイプと、リモコンを使って遠隔手動で電気を流せるものがあります。
自動タイプは、犬が吠えた時の喉頭振動を感知して自動で嫌悪刺激を与えます。
手動タイプは、文字通り、人間がEカラーと遠隔で接続されたリモコンボタンを押すことで、自由に嫌悪刺激を与えられます。
犬が吠えた時、飛びついた時、その他いろいろな”問題行動と呼ばれる行動”の矯正に使われます。
これらのアイテムは、ネット注文をすれば誰でも簡単に入手することができます。
たくさんの飼い主さんが困っている「犬の無駄吠えが一瞬でなくなる夢のようなアイテム」として紹介されてることが多く、一般の飼い主さんだけでなく、プロ?のドッグトレーナーも使用しています。
例えば、『ワ◯◯ル』という通販サイトを開くと、いかにこのアイテムが素晴らしいか教えてくれます。
逆に、怪しくなるぐらいにサイト内は使うことのメリットで溢れていますw
「費用が安い」「他の方法でもだけだった問題行動でもこれで一発で解決!」「電流の強度はその犬に合わせて変えられます!」というものですが、科学的根拠のある数字は見当たりません。
電気の強さが変えられると言っても、いったいどうして適切な強度がわかるのでしょうか?
犬は、我慢強い動物ですから、痛くても我慢している可能性が高いです。
=過去、私も使っていました=
実際に、私も訓練所で犬のトレーニングを学んでいた時代には、先生の指導の元
頻繁に使用していました。
犬の首に電気が流れる突起がしっかり付くように、皮のベルトをゴムに変える作業をしていたのは悪い思い出です。
ゴムに変えるとピタッと付くので、確実に嫌悪刺激を与えることができるからですね。
せっかくなので
訓練所で、Eカラーを使った訓練がどのように行われていたかを、少し書こうと思います。
(バッシング覚悟でね)
訓練所では、問題行動の矯正だけでなく、服従訓練も行われます。
服従訓練とは、『脚足行進:指導主の脚にピッタリとついて歩く』『伏せ』『座れ』などを、指示で行えるようにすることです。
そして教える際に、Eカラーを首につけておきます。
例えば、脚足行進を教える時に、犬がフラ〜と指導主から離れて行こうとした時に、電気を与えます。当然、犬はびっくりします。それを何回か繰り返すと、犬は指導主から離れると
嫌なことが起こると考えて、離れないようになってきます。
電気ショックが怖くて、一歩も動かない犬もいました。
リモコンのボタンを押した瞬間に、小型犬が「キャいん!」と悲鳴をあげて、1mぐらい跳んだ光景も目にしました。
電気ショックの強度を変えることはできるのですが、我慢強い犬は反応しないことがあったり、どんなに強くしても電極のビスがしっかり首についていないと、意味なかったりします。
また、他の犬に吠えるからと言って
吠えた瞬間に電気ショックを与えていたこともあります。
その犬は、他の犬を見ただけでパニックになって、余計に行動が悪化しました。
脳に刷り込まれは、強烈な電気刺激は、もはや完治不可能です。
さらに
自動で電気が流れるタイプの物も、もちろん使用していました。
主にケージに入れると吠える犬に対して使用していました。
犬舎から悲鳴が聞こえることも日常茶飯事。
「キャいん!」なんてものではなく、「あがあああああああああ!!」といった叫びです。
叫んでいる間も、ずっと電気ショックが継続して与えられているからです。
吠えたことに対して電気ショックが与えられているとわからない犬たちは、ひたすら吠え続けて、電極に接している皮膚の部分が火傷のようになっていた犬もいます。
こんなことが日常的に行われていました。
私を含め学生達は、知識も乏しく、体育会系の雰囲気が強い訓練所では
上の人に言われた事をただ実行するしかなかったのです。
卒業してから、何も縛られることがない状況で、新たに犬の行動や心理について勉強を始めると、自分がいかに愚かな事をしていたのか反省することになりました。
=百害あって一利なし=
電気ショックカラーについて科学的データはないかな?と探していたところ
欧州医療動物学協会(ESVCE)が発表した内容がありましたので、そちらを参考にしました。
https://www.sciencedirect.com/
それによると
『電気ショックカラーの安易な仕様は、不安や恐怖、フラストレーションや痛みなどが原因の問題行動に対して使用すると、根本的な原因が放置されて、逆に悪化する』ということです。
自分の経験と照らし合わせてみても、まったくもってその通りでした。
通販サイトでは、メリットばかりが目立ち、購入者が勘違いしてしまう可能性がありますので、自分の経験の元でデメリットも記載しようと思います。
電気ショックカラーのデメリット
電流の強度はその犬に合わせることは難しい。
嫌悪刺激を無関係なものと結びつける可能性がある。
電気ショックを与えるタイミングが難しい。
ストレス関連行動が増える。
罰の使用は攻撃行動を助長する。
1、「電流の強度を調節できるから犬に優しい」という主張は、無理があります。
というのも、犬のサイズは超小型犬〜超大型犬までバリエーション豊富で、被毛の長さや皮膚の厚さ、皮下脂肪の厚さは当然違います。そのため同じ強度でも、犬に伝わる刺激は変わってきます。
2、不快な電気刺激を受けた時、たまたま自分の周辺にあった、電気ショックとは無関係なものと不快感を結びつけてしまう恐れがあります。
例えば、犬が吠えた際に電気ショックを受けて、近くに子供がいたとしましょう。
すると、犬は子供が近くにいることと電気ショックを結びつけ、子供に対して警戒心を持つようになります。
3、自動で電気ショックが与えられるものは、バッテリー切れや誤作動がよく起こります。
実際に、私が使っている時も頻繁に起こっていました。
そうすると、犬は一貫して罰が与えられないので、結果として何に対しての罰なのか犬にはわからなくなり、情緒不安定に陥ります。
4、電気ショックカラーを用いてトレーニングを行うと、ストレス関連行動が増えることがあります。緊張による激しいパンティング・あくび・前脚を上げる・尻尾を下げる・舌舐めずりなどが、慢性的にみられるようになり、犬の福祉を著しく損なってしまいます。
5、罰を用いてトレーニングをすると、犬の攻撃性の増加、恐怖と不安行動の増加、上記のようなストレス関連行動の増加などのデメリットや副作用が生じます。
罰の使用は、瞬時に犬の行動を変えることができるため、効果があると勘違いしやすくなります。ですが、根本の原因は解決していないため、時間の経過とともに元に戻ります。
このように、Eカラーにはデメリットや副作用があるにもかかわらず
簡単に誰でも入手することができます。
そして、それを多くの(自称)ドッグトレーナーやショップが推奨しています。
電気ショックカラーで、安易に問題行動を矯正することは、動物の感情を置き去りにしています。
犬が吠える原因はどこにあるのでしょうか?
吠えるように助長したのは、一体誰でしょうか?
犬に対しての知識不足が招いた結果だとしたら、電気ショックカラーに頼る必要はあるのでしょうか。
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